top of page

映画×オーディション

​2016年10月31日 

​ゲスト:水瀬ゆうり(女優)

1.ARCのオーディションを受けようと思ったきっかけ

 2015年の2月に、「MOVIE CREATE」に掲載されていた『カラス姫』のシン役の募集要項を拝見したのがきっかけです。

『カラス姫』の前に出演した映画がデビュー作なのですが、右も左も分からないまま撮影が終わってしまい、どこかもやもやしていました。

役者としてもっと必要とされたい、映画の現場でどんどん経験を積みたい、大きい役を演じたい…。様々な思いから、応募を決めました。

シン役の選考からはもれてしまったのですが、別な役の候補があり面談させてほしい、とご連絡を頂戴しました。後日、ARCの代表でいらっしゃる篠原隼士監督とお会いし、誠子役を演じることになりました。

 

ARCさんと『カラス姫』との出会いは、役者人生の大きな転機になりました。応募して本当に良かったです。

 

 

 2.ARCと他のオーディションの違い

 最大の違いは【実技がなかった】ことです。行われたのは1.で触れた「監督面接」のみです。

(ただし、『カラス姫』の一部の役柄は実技オーディションがあったと聞いています。)

多くのオーディションは「監督面接」と併行して【実技】があります。内容は「自己紹介」「エチュード(=即興芝居)」「初見の台本を使っての演技」などが定番(映画以外のジャンルも然り)です。ARCさんのオーディションでは、それらは一切ありませんでした。

 

私は『カラス姫』の撮影初日まで、篠原監督やスタッフの皆様の前で一度も演技を見せていません。初めて演技をしたのは、「誠子」として初めての現場に立った時でした。

 

また、オーディションでは監督だけでなく、スタッフ様や関係者様など、複数の方々が並ぶ前で審査を受けることが多いのですが、ARCさんでは役が決まるまでに直接お会いしたのが篠原監督お一人だったことも、違いのひとつです。

 

 

 3.オーディションを受けるときに心がけていること

 「水瀬ゆうり」は【商品】であり、オーディションは【商品】の良さを知っていただくプレゼンテーションの場である、と考えています。より良いプレゼンをするために、「普段どおり」を心がけてオーディションに臨んでいます。

ただ、オーディションという平常心を保ちづらい環境下で「普段どおりの自分自身」や「普段どおりの力」を出しきるのはとても難しいので、対策として、自分の引き出しを増やすことを大事にしています。例えばレッスンやワークショップに参加して実践を踏み、引き出しに経験値をどんどん蓄えていきます。オーディションで困った時にそれを開けることができれば、とっさの時も身体が自然に対応してくれます。

実際の撮影でも、蓄えてきた引き出しは活躍していますが、まだまだ量が足りません。

 

 

 4.オーディションは一年でどれくらい受けているか

 現在、個人的な事情でオーディションに臨む数を抑えざるを得ない状況にあるため、この回答は理想とは程遠いことを前提に記します。

 

2015年は、映画をはじめCMやモデル案件などに約40~50件応募しました。そのうち、面接やオーディションにたどり着いたのは8件、合格は4件(うち2件が映画)でした。つまり、書類選考の段階でサヨナラを告げられてしまう案件が大半だったということです。

 

「下積み時代に年間200~300本オーディションを受けても落ち続けていた。」いま人気の若手女優さんのこのエピソードが強く印象に残っています。

 

少し乱暴ですが、数を打てば、的に当たる可能性は上がります。オーディションには沢山チャレンジするべきです。…とこれを書きながら自分にも言い聞かせています。

 

 

 5.今までのオーディションで心に残っていること

 ①「泣く演技」で涙を流せなかったこと。

初めて受けたオーディションで、「友人の死というテーマでエチュードをし、その中で涙を流してください」という演技審査がありました。実際に涙を流せた人も流せなかった人もいるのですが、私は後者でした。当たり前のように涙を流せる役者さんが沢山いることに圧倒され、自分は出来の悪い役者だ、と怖くなったのを覚えています。以来、「涙を流す」演技をよく練習するようになりました。オーディションで他の役者さんも惹きつけてしまうくらい実力を付けよう!と強く心に刻まれました。

 

②「もっと○○のようなイメージで演じてみてください」が出来なかったこと。

○○にはある有名な昔の邦画が入るのですが、某映画のオーディションの演技審査中に、監督からこの演出が入りました。しかし、私はその作品を見たことが無く、想像でしかその演出に応えることができませんでした。当然、落ちました。もし実際に○○を観ていて、そのイメージの引き出しを持って演じられていたら、結果は変わっていたかもしれません。役者は演じることだけではなく、作品を観ることや、映画や芝居の歴史を知ることも必要なのだと痛感したオーディションでした。

 

 

 6.これから役者になりたくてオーディションを受ける人へ。【オーディションに行って緊張したときに、緊張を抑える方法】

 「オーディションで緊張している役者を見ると、この人に自分の作品を任せていいのか不安になる」…オーディションで「選ぶ側」に立つ方が仰っていた言葉です。

 

私も緊張しやすいです。が、「緊張したときに自分はどうなるのか」を知ることで緩和しやすくなりました。例えば、足が震える、声が上ずる、など、人それぞれ緊張するときに出る何らかの反応があるはずです。その反応に自分で気付いて、緊張している事実を素直に受け止めると、意外に冷静になれます。

また、反応を自覚しておけば、事前に対処法を考えることも可能です。私は、自分の自己紹介の練習を録画した映像を見ているときに、自覚が無かった緊張反応に気付くことができました。それは努力すれば克服できるものだったので、改善のためのトレーニングをしています。

 

オーディションでは、審査員の方々に伝わらなければ、緊張しているというジャッジは下りません。上手に付き合って自分の中だけで収めると良いと思います。私も、もっと緊張をコントロールできるよう精進します。

 

 

 7.オーディションを受ける前にやっていること

 受ける日が迫っている場合は、「情報収集」です。例えば映画制作団体様のオーディションに参加するなら、過去にどんな作品を手がけていらっしゃるのか調べ、映像化している作品は動画サイトやDVDで見ます。さらに、お会いする方がどなたか事前に分かれば、その方のプロフィールやSNSをチェックする、過去のインタビュー記事を拝読するなど、どんな考え方をお持ちなのかを最低限知っておきます。(ARCさんのときもやりました。)

先方のことを何も知ろうともせずにオーディション会場に向かうのは、お相手に対して失礼です。

募集要項や役柄を熟読し、どんな役者が求められているのかを考えることも必須です。

 

長い目で見るとすれば、先述した「自己紹介」、「エチュード」、「初見の台本で演技する」の3つを中心に練習して、引き出しを増やします。方法は、自分の武器にしておきたいので企業秘密にさせてください!

8.ARCでは『カラス姫』で誠子という役を演じていただきました。ARCの現場についてどんなことを感じたか。

【(1)雰囲気について】

ARCさんはこれまでのどの現場よりも「役者」と「スタッフ」の境界線を感じました。言い方を変えると、「役者の仕事」と「スタッフの仕事」がはっきり分かれていました。

例えば、待機場所は基本的にスタッフさんとは離れており、控え室のケアも徹底されていました。役者陣が現場でお仕事を手伝おうとすると、それをスタッフさんがさりげなく代わって下さることもよくありました。我々役者が演技に集中し、現場でベストを尽くせるよう配慮が行き届いているのです。スタッフミーティングの様子を見ることがほぼ無かったのも、こういった配慮のひとつなのかもしれません。

だからといって、お互いの距離が遠いということも無く、現場の雰囲気は、日ごとどころか時間刻みで右肩上がりに良くなっていきました。子役の存在が大きかったですね。彼ら彼女らが我々大人にすごくなついてくれて、大人も一緒になって遊ぶことで子役を介して大人同士も仲良くなって。つい数日前まで見知らぬもの同士だったのに、こんなに短期間で仲良くなった現場は、ほかに無いと思います。

 

それでも、いざ撮影に入れば皆でプロの仕事をする。このメリハリが心地よかったです。

 

『カラス姫』の皆様とは今でも仲良しです。キャスト・スタッフ問わずお会いしてお酒を飲みに行ったり、出かけたりしています。これも他の作品ではなかなか無くて、とても居心地がいいです。現場の外では境界線は一切なく、仲間として全力で楽しんでいます。

 

【(2)演出方法について】

篠原監督の演出は基本的に役者主導で、カメラに合わせた動きを付けていただいた後は任せていただける、比較的自由なスタイルでした。

「カラス姫」の現場はほとんどの共演者さんが先輩で、皆さんが、「私はこう思う」と監督と現場で話し合っているところをよく見ました。また、アドリブを交えて作品の雰囲気に素晴らしい味付けをなさる方もいらっしゃいました。

私は基本的に、篠原監督に「ここはどうしたらいいですか?」と質問し、答えていただいたことを参考に演じていくことが多かったので、主体的に自分の演技を監督に提案していく先輩方のやり方には心を打たれました。こういうやりとりをしながら、作品を監督と一緒に創り上げていく方法もあると、言葉でなくその姿で教えていただきました。以降の作品では、私も自分の考えを可能な限りお伝えし、監督と意見交換をするように心がけています。

 

【(3)意気込みについて】

撮影シーンや台詞が多い役が初めてだったゆえに、絶対に結果を残そう!と少し力んでいました。役者の仕事が出来ることが嬉しく、撮影が楽しみで、今思えば浮ついていたような部分もありました。

その後、映画を含めて色々な作品にお世話になりましたが、「結果を残す」という力みは、今はありません。結果を残すことより、仕事を楽しみたいと思うようになったからです。より自然体で現場に臨めるようになりました。

変わらないこともあります。「自分のベストを尽くす」という意気込みです。頂戴したお仕事に本気で向き合っています。

 

【(4)公開まで俳優が深く関わったことについて】

先述したように、私は役者として求められたい一心でこの世界に身を置いています。『カラス姫』の舞台挨拶の司会をご依頼頂いた時も、二つ返事で「はい」とお答えしました。必要とされたい気持ちが人一倍強いので、それに応えたくて、MC原稿をつくるために公開中は夜中までPCを叩いていました。このときのMC経験はかなり役立っています。自分が答える側に立ったときに配慮すべきことが分かりました。

 

ここからは推測ですが、公開まで役者が関わることに否定的な役者さんもいらっしゃるかもしれません。根拠ある話があるわけではないのですが、演じることのみに集中したい方もおられると思います。私は当時、他に撮影などを抱えていなかったですし、未開拓のMCのお仕事に挑戦したくてお引き受けしましたが、自分ごときがしゃしゃり出過ぎてはいないだろうかと不安になった時期がありました。でも、水瀬にお願いしたいと仰ってくださるARCさんを信じることに決めて迷いは晴れました。お手伝いできることはこれからも協力させて頂きたいと思っています。

 

色々なことがあった『カラス姫』。出会えたことで人生が変わったと言い続けているのは大げさではありません。

 

 

 8.コラムを読んでいる人に一言

 2012年11月。私は27歳で役者の世界に飛び込みました。

幼い頃からこの仕事に憧れていたものの、「お前には無理だ」と笑われるだろう、と、怖くて誰にも言えず、憧れをずっと閉じ込めて生きていました。

大学を卒業した頃から、「このままの人生でいいのか?」と不安がよぎるようになりました。不安は年齢を重ねるごとに強くなり、自分の心に嘘をつくことが耐えがたい苦痛になりました。会社を辞め、今後の人生を「自分の本能=幼い頃からの憧れ」に託すことに決めました。

これを読んでくださっている方の心の中に、閉じ込めている夢や目標があるなら、一度立ち止まって、正直になってみて欲しいと思います。何か変わるかもしれません。私は自分に嘘の無い人生を選んだ先に幸せが待っていると信じて、今日も生きています。

水瀬ゆうり(みなせ ゆうり)
1985年1月11日生まれ。宮城県出身の役者/女優、撮影会モデル。
2014年、映画『ソフテン!』でデビュー。ARC FILM作品には『カラス姫』、MV『君は僕のロックスター』に出演。
最新出演映画『AGAIN』が2016年内にYouTubeで公開予定。

bottom of page